生成AIのハルシネーションは、プロンプトを工夫しても完全にはなくせません。ただし、AIに自由な補完をさせる余地を減らし、使う根拠と不明時の対応を具体的に指定すれば、もっともらしい誤情報や架空の出典が混じるリスクは下げられます。
効果的なのは「正確に答えて」と求めることではなく、何を根拠にし、何を不明とするかを決めることです。事実・解釈・推測・要確認事項を分けて出力させると、人が確認すべき箇所も見つけやすくなります。
調査、資料要約、記事作成、社内文書の下書きに共通して使えるプロンプトの型と、生成後に必要な確認手順を紹介します。
ハルシネーションを減らすには「根拠・不明時・出力形式」をセットで指定する

ハルシネーションを減らすプロンプトでは、回答内容だけでなく、AIが回答を組み立てる際のルールを指定します。使ってよい根拠、不足情報がある場合の処理、回答の整理方法を一度に決めることが基本です。
生成AIは自然な文章を続けようとするため、依頼が曖昧だったり前提が欠けていたりすると、空白を推測で埋めることがあります。対象範囲を狭め、確認できない情報を無理に補わないよう求めることで、検証しやすい回答になりやすくなります。
- 対象、地域、制度、時点などの回答範囲を指定する
- 参照してよい資料や情報源を限定する
- 確認できない内容は「不明」または「要確認」と明記させる
- 事実、解釈、推測を分けて出力させる
- 確認できないURL、文献、引用文、数値を作らせない
そのまま使える基本テンプレート
以下は、資料を渡して要約・調査・執筆を依頼する際の土台です。角括弧内を目的に合わせて置き換えてください。
あなたは[役割]です。以下の質問に回答してください。 対象範囲:[対象・地域・制度・期間] 使用してよい根拠:[貼り付けた資料/指定した公式資料/確認できる一次情報] 基準時点:[YYYY年MM月DD日現在] ルール: ・根拠で確認できる内容だけを事実として書く ・確認できない内容は推測で補わず、「不明」または「要確認」と書く ・推測や一般的な解釈を含める場合は、事実と明確に分ける ・確認できないURL、文献名、著者名、引用文、数値は作らない ・根拠が不足して結論を出せない場合は、必要な追加情報を質問する 出力形式: 1. 確認済みの事実 2. 解釈・推測(あれば) 3. 不明点・要確認事項 4. 確認に必要な資料または確認先
「不明と書いてよい」と明示することが重要です。完成した答えを必ず出すよう求めるより、保留できる余地を与えたほうが、断定的な誤答を抑えやすくなります。
曖昧な指示を、判断できる条件へ直す
「正確に詳しく教えて」だけでは、対象範囲、情報の新しさ、求める結論が分かりません。AIが質問者の意図と異なる前提を補う可能性があるため、対象・時点・根拠・出力条件を加えます。
| 曖昧な指示 | 修正例 |
|---|---|
| この制度を詳しく説明して | 日本の[制度名]について、[基準日]時点で確認できる公的資料を前提に、対象者・手続き・例外を分けて説明して |
| 競合を調べて | [商品カテゴリ]の国内市場を対象に、公式サイトで確認できる提供内容だけを比較して。不明な項目は空欄にして |
| 記事を書いて | 下記のファクト一覧だけを使い、未確認の効果や実績を追加せず、初心者向けの下書きを作成して |
固有名詞が複数の意味を持つ場合や略称・社内用語を使う場合は、用語の意味も指定します。不明なら回答前に確認質問をするよう指示すると、誤った対象について書き始める事態を避けやすくなります。
根拠を限定して、検証できる回答にする書き方
回答の正しさを確認しやすくするには、AIが参照する情報の範囲を決め、各主張がどの資料に基づくかを分かる形で出力させます。検索機能や引用表示があるAIでも、引用先が主張を実際に支えているかは別途確認が必要です。
根拠の範囲を狭めるほど検証しやすい一方、資料が不足すれば答えられない項目も増えます。その場合は、もっともらしい補完よりも、不足を明示する回答のほうが実務上は安全です。
情報源・対象期間・判断基準を先に決める
根拠は目的に応じて優先順位を付けます。制度や規約なら公的機関・運営者の公式資料、社内手順なら承認済みの社内文書、会議内容なら議事録や録音の文字起こしというように、できる限り一次情報を優先します。
最新情報が必要な依頼では、基準時点を必ず指定してください。更新日や適用時点が分からない資料は、内容自体が正しくても現在のルールに合わない場合があります。
優先する根拠は、公式発表、法令・公的資料、契約書、社内規程の順とします。 基準日は[YYYY年MM月DD日]です。更新日または適用時点を確認できない情報は、 現行の根拠として扱わず、「時点を要確認」と記載してください。
主張ごとに根拠を対応付け、出典を作らせない
長い回答では、最後に出典一覧だけを付けても、どの主張の根拠か追いにくくなります。各段落の末尾に資料名と該当箇所を記す、表に根拠欄を設けるなど、主張との対応が分かる形式を指定します。
書誌情報やURLも生成結果として検証する必要があります。実在しない論文名、誤ったリンク、原文にない引用が混じる可能性があるため、次のルールを加えてください。
出典を示す場合は、確認できる資料だけを記載してください。 URL、ページ番号、文献情報、引用文を確認できない場合は生成せず、 「出典の確認が必要」と書いてください。
ユーザーが貼り付けた資料だけを使う作業では、資料名だけでなく、資料内の見出し名・段落冒頭・該当箇所を併記させると原文と照合しやすくなります。
不明点・推測・確認済み事実を分けるプロンプト設計
ハルシネーション対策では、誤りを出させないことに加え、誤る可能性がある部分を見える化することも重要です。調査途中の回答や企画の下書きで確定情報と仮説が混ざると、その後の判断まで誤りやすくなります。
情報の状態を分けてから結論を扱うことで、生成結果を検証可能な作業メモとして利用できます。
「不明」と書く条件と、追加質問をする条件を指定する
単に「不明なら不明と答えて」と書くだけでなく、どの条件が欠けたときに質問や保留を行うかを決めます。対象者、地域、日付、原資料、評価基準のいずれかが不足する場合は、回答前に確認するよう求める方法が有効です。
次の情報が不足する場合は、本文を作成する前に確認質問をしてください。 ・対象となる商品、組織、制度 ・対象地域と基準時点 ・判断に使う資料または評価基準 仮定を置く場合は、「仮定:」として明示し、 確認済み事実のように書かないでください。
急ぎで仮置きの回答が必要な場合は、確認質問を待たずに仮定を置くことを許可し、仮定一覧を冒頭に出すよう指定します。仮定が本文に埋もれず、利用者が前提を点検できます。
事実・解釈・推測・要確認を分ける
出力形式は、目的に合わせて選びます。結論を急ぐ調査は表形式、説明文の下書きは見出し形式が扱いやすいでしょう。
| 区分 | 書く内容 | 人が行う確認 |
|---|---|---|
| 確認済みの事実 | 資料に明記された日付、数値、定義、発言 | 原資料と照合する |
| 解釈 | 資料から読み取れる意味や比較結果 | 判断理由を確認する |
| 推測・仮説 | 資料だけでは確定できない可能性 | 事実として転記しない |
| 要確認事項 | 不足資料、更新状況、例外条件 | 確認先と担当を決める |
たとえば売上の増加は事実でも、その増加要因は因果関係を示すデータがなければ仮説にとどまります。原因と断定せず、「考えられる要因」として事実の記述から分離するよう指示してください。
用途別プロンプト例と、出力後に人が確認する手順
要約、調査、文章作成では、誤りが入り込む場所が異なります。用途ごとにAIへ渡す材料と、禁止する補完を変えることが必要です。
どの用途でも生成結果は完成品ではなく、確認対象が整理された下書きとして扱うことが前提です。
資料要約では、資料にない情報を補わせない
議事録、契約書、調査レポートなどを要約する際は、外部知識を混ぜないよう指示します。背景説明や原因の補足を求めると、資料外の情報が事実らしく混ざる可能性があります。
以下の資料だけを根拠に要約してください。 資料に書かれていない背景、原因、評価、将来予測は追加しないでください。 出力は「記載されている事実」「資料から読み取れる論点」 「資料だけでは分からない事項」に分けてください。
要約後は、否定表現、条件、例外、数字の単位を原文と照合します。「原則」「ただし」「除く」といった限定条件が落ちると、要約の意味が変わるためです。
調査回答では、範囲と確認可否を明示させる
外部情報を調べる依頼では、対象、地域、基準日を固定します。検索結果を使える環境でも、検索結果や引用表示だけで正確性が保証されるわけではありません。
[対象]について、[地域]を対象に、[基準日]時点の情報を調べてください。 公式サイト、公的機関、一次資料を優先してください。 各結論について、確認できた根拠と確認できない点を分けてください。 根拠が古い、対象地域が異なる、一次情報で確認できない場合は、 結論を断定せず、確認すべき公式情報を示してください。
会社名、製品名、制度名、料金、日付、連絡先、URLは優先して確認します。変更されやすい情報ほど、AIが回答を生成した日時ではなく、原資料の更新日・適用日を見ることが大切です。
文章作成では、事実の棚卸しと執筆を分ける
記事や社内文書は、最初から本文を書かせるより、確認済み事実の整理と執筆を二段階に分ける方法が適しています。文章の流れを整える段階で、もっともらしい補足が混ざるのを防ぎやすくなります。
まず、提供資料をもとに次の一覧だけを作成してください。 ・本文に使用できる確認済み事実 ・根拠資料と該当箇所 ・未確認事項 ・表現上の注意点 次に、確認済み事実の範囲だけで本文の下書きを作成してください。 未確認事項は本文で断定せず、必要なら「確認が必要です」と記載してください。
企画書のように仮説が必要な文書では、仮説と提案を許可したうえで、事実の記述とは別見出しに分けます。創造的な提案を禁じるのではなく、事実主張と混同させないことが目的です。
重要な回答は一次情報へ戻って照合する
出力後は、すべてを同じ深さで確認するのではなく、誤りの影響が大きい項目から原資料へ戻ります。固有名詞、数値、日付、引用、制度の条件、リンク先、比較の前提は最低限確認してください。
- 回答から外部事実を含む文を抜き出します。
- 各文について原資料を開き、対象・時点・条件が一致するか確認します。
- 根拠が見つからない文は削除するか、「未確認」「仮説」に変更します。
- 最終版で、結論が根拠の範囲を超えていないか見直します。
医療、法律、金融、安全、採用・評価など、誤りの影響が大きい領域では、生成AIの回答だけで個別判断をしないでください。専門家、担当部署、公式窓口への確認を前提に運用する必要があります。
プロンプトは誤りをなくす保証ではない
プロンプトは生成AIの誤りを完全になくすものではありません。根拠を指定しても、資料の読み違い、条件の見落とし、古い情報の混在、根拠と結論の飛躍が起こる可能性があります。
目的は必ず正解させることではなく、誤りを減らし、発見しやすくすることです。流暢な説明、具体的な数値、整った表、出典らしい表記だけで信頼せず、主張と原資料の対応を確認してください。
また、入力内容の扱いは生成AIサービス、契約プラン、組織の設定、社内規程によって異なります。氏名、連絡先、顧客情報、健康情報、契約内容、未公開の事業情報を入力する前に、利用中サービスの公式なデータ利用条件と組織の情報管理ルールを確認しましょう。匿名化した情報も、他の情報との組み合わせで個人や案件を推測できる場合があります。
まとめ:回答を完成品ではなく検証可能な下書きにする
ハルシネーションを減らすには、対象・基準時点・使用する根拠を具体化し、確認できない場合は不明または要確認と書くよう指定します。さらに、事実・解釈・推測を分け、主張ごとに原資料へ戻れる出力形式にすることが有効です。
最も重要なのは、生成AIに正しさを保証させようとするのではなく、人が確認できる形で出力させることです。重要度が高い情報ほど、原資料の対象・時点・条件まで照合してから利用してください。